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龍谷大学社会科学研究所付属安重根東洋平和研究センターは何を目指すのか

本センターは、「日韓未来平和交流事業の学際的研究―龍谷大学所蔵の安重根の『遺墨』『丹波マンガン記念館』に代表される歴史・文化資産の調査研究とその有効利用―」をテーマとして、2013年4月1日に発足しました。
この発足に先立って、「韓国併合」の1910年から数えて101年目である2011年3月27日、龍谷大学主催で「日韓交流、新たな時代へ――日本における安重根関係資料の存在意義――」と題された講演会が開催されました。本講演会は、龍谷大学図書館と安重根義士紀念館との間で学術研究・交流に関する協定書締結を記念して実施されたものです。本協定により、資料活用と教育・研究の発展を目指すとともに、日本と韓国(以後、日韓とする)友好関係の強い絆を築くことが両機関によって確認されました。本研究は、本学所蔵の「安重根の遺墨」や強制連行の歴史を刻印する「丹波マンガン記念館(京都市右京区)」などに代表される日本に埋もれた日韓の貴重な歴史・文化遺産について歴史的、経済かつ政治的、文化的側面から学際的に解明していくことを目的としています。 日韓の足跡や交流の実像は近年かなりわかってはきましたが、社会に浸透しているとは言い難く、貴重な歴史・文化資産が日本各地に埋もれています。その理由の一端は、明治維新以後の日本の近代化で、朝鮮と朝鮮人に対する偏見と蔑視感情が高まり、学校教育においても近代化以前にあった朝鮮との豊かな交流のことが意図的にかき消されてしまったからです。戦後においてもその問題は解決を見ないまま現在に至っています。近年は日韓だけでなく、日中韓においてもかつてないほど緊張感が高まり、不必要な摩擦が生じています。そのような時代だからこそ、両国の関係の実相を知り、そこから教訓を学びとり、若い世代への教育に反映することが重要と言えます。

本センターは、日韓の平和交流のために必要な研究目的を達成するために3部門(歴史部門、経済・政治部門、文化部門)をおき、次の研究テーマに取り組みます。
1)歴史部門;100年余前に安重根は、自著「東洋平和論」で日・中・韓の三国が力を合わせるべきと力説しました。歴史観の相克という現実の壁にぶつかり、今もなお先覚者の思想だけにとどまっている東アジアの現実を踏まえながら、政治的・法的問題が中心となるものの歴史的な解明を行うこと、とりわけ過去責任と和解のあり方をとおして、過ちを繰り返さないための未来歴史交流事業の基礎となる研究活動を行います。
2)経済・政治部門;「丹波マンガン記念館」は、企業の強制連行による朝鮮人、中国人労働者を犠牲にした企業活動を考察できるとともに貴重な文化資産です。このことを含め、戦後からこれまでの交流、特に企業間の経済的な交流を振り返るとともに、今後の経済交流のあり方を展望します。とりわけ、安重根が先見的に唱えた「東アジア経済共同体」としての日韓の経済交流事業の可能性も展望します。また、最近、顕著な動きとしての韓国および東アジアにおける社会的企業、協同組合の広がりの検討も行います。
3)文化部門;「韓流ブーム」にみられる近年の大きな変化に注目しつつ、日韓の長い文化交流の歴史をふまえつつ、本共同研究では、特に多・異文化交流の視点から今後の日韓文化交流を展望します。この文化交流には教育交流およびNGO・市民交流も含めます。市民交流と教育・文化交流、相互理解のための未来文化交流事業のあり方を研究します。

以上の三つの部門のテーマ考察をとおして、日韓未来交流のあり方を、特に事業的側面を中心にしながらあらたな提案を行うことを目的とします。具体的な事業のあり方が日韓市民社会の形成の基盤づくりとなり、EUの「東アジア版」としての未来展望につながると言えます。従って、本共同研究の目的は、歴史的・経済的・文化的考察をとおして、未来100年のための歴史・経済・文化交流事業のあり方を展望するとともに、可能な限り具体的な事業提案を行うことを目的とします。 今、世界中でnationalismが隆盛し、「他者」に対する反感、排除、嫌悪の気分が蔓延する事象が見られます。日本も例外ではなく大きな問題となりつつあります。東アジアの歴史的和解、地域統合の前途は多難でありますが、東アジアは地域統合の未来、その目標を目指してこそ、東アジア地域全体の安定につながると言えます。本共同研究においては、その研究成果を市民交流、教育への還元を具体化する共同研究として、その特徴を出していきたいと考えています。

最後に、龍谷大学の貴重資料として、深草図書館特別書庫で保管されています安重根の関係資料(88点)として遺墨三幅および写真があります。特に、遺墨三幅は、1909年10月26日、中国東北部のハルビン駅で元老・伊藤博文(元首相・初代韓国統監)を撃った韓国の独立運動家であり大韓義軍参謀中将でもある安重根が翌年3月26日に旅順監獄で処刑される直前に監獄の中で書き残した絶筆です。この遺墨を、2010年に安重根祈念館に貸し出しをし、没100年の安重根特別展において海外初公開となった経緯があります。こうした龍谷大学が取り組んだ日韓交流は、今日の不安定な時代にこそ継承・発展させるべきであり、こうした重要資料を含めて学際的・国際的に調査研究することは龍谷大学の独自性を内外に示すことにもなり得ると考えています。

2014年4月10日
龍谷大学社会科学研究所付属安重根東洋平和研究センター

代表・李洙任、事務局長・重本直利